「黄金のテントの木」は、ブナの木のなかまで、ふつうのブナの木とちがい、枝がぐるりとヤナギのそれのように地面にまでたれ下がり、秋になると葉っぱの一枚一枚が黄金色にそめあげられます。枝をわけるようにして入ると、まるで黄金のテントのなかにいるようなのです。
ときどき風が吹いて、葉っぱがハラハラと落ち、それがつもると、テントのなかも、黄金のじゅうたんがしきつめられているようになります。
葉っぱが落ちてできた天井のすきまから、日の光がその黄金のじゅうたんの上に差し込んでくる、そんなところで、ヤービはうとうとと昼寝をしていたのでした。
ーヤービの深い森・ひとりで、きげんよくしていること よりー

ヤービの深い森/ 梨木果歩 作/ ㈱福音館書店
黄金のテントの木って、ステキですね。私もこんな長閑な所でお昼寝をしてみたいものです。
ヤービというのはマッドガイド・ウォーターという小さな三日月湖の岸辺に棲んでいる小さな生きもののことです。上の本の表紙に描かれているイラストが、それです。
人間のように言葉を持っていて、家族で生活をしています。人間でいえば、ちょうどナチュラリストのような感じでしょうか。
物語はウタドリさんという人間の、まったりとした語りで進んでいきます。ウタドリさんというのはもちろんニックネームで、サニー・クリア・フリースクールの教師です。不思議な生き物のヤービと話ができる唯一の人間らしいです。
「ヤービの深い森」では、この不思議な生き物ヤービたちの生活と、語り手のウタドリさんのスクールでの生活が並行して語られていきます。
そして、この両者がそれぞれの問題を解決するために、テーブル森林公園(ややこし森)へユメミダケという幻覚作用のある不思議なキノコを探しに行くことになり、そこでお互いの運命が交わることになります。
幻覚作用のあるキノコなんて、健全な子供の話に登場させていいんでしょうか?ということは、この際脇に置いておきましょう(笑)
ここでの出来事はとても不思議な出来事でなんですが、それを信じることができるのはこの作品の前作「岸辺のヤービ」からの作者が語るまったりとした話を、投げ出すことなく読み進めてきた人だけのような気がします。
ですから、いきなり結末を読んだ人以外は、すてきな結末に「こんなこともあるかもしれない」と、うっとりされることでしょう。
「ヤービの深い森」から読むと、この不思議な生き物についてとまどうことが多いので、もしかしたら最初の「岸辺のヤービ」から読むと、すんなりと話の流れに乗ることが出来るかもしれません。

岸辺のヤービ / 梨木果歩 作 /㈱福音館書店
作者の梨木果歩さんは、「西の魔女が死んだ」の作者です。
イギリスに住んでいたことがあって、そこでの生活を書いた作品もいくつかあるので、もしかしたらマッドガイド・ウォーターはイギリスの湖水地方を下敷きにしているかもしれませんね。
ウタドリさんが教師をしているサニークリフ・フリースクールは寄宿学校で、生徒さんの多くが家庭や自身にさまざまな問題を抱えている子供が多いようです。ウタドリさんもそうだったと語っています。
梨木果歩さんの静かな語りは、清らかな水が染み入るように、忙しさで疲弊した今の子供たちの心をそっと癒してくれるかもしれませんね。
もしかしたら、大人も……。
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ヤービの深い秋 (福音館創作童話シリーズ) [ 梨木香歩 ]
いつもありがとうございます。久しぶりに本の感想が書けて良かったです