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小さなトロールと大きな洪水/トーベ・ヤンソンのムーミン第1作/児童文学/感想・紹介など

1939年、戦争の冬のことです。

仕事はぱたりといきづまり、絵を描こうとしてもしかたがないと感じていました。

「むかし、むかし、あるところに」で始まるなにかを書こうとふと思いたったのも、わからないではありません。

……王子さまや、王女さまや、小さな子どもたちを登場させるのをやめて、風刺画を描くときに著名がわりに使っていた、怒った顔の生きものを主人公にして、ムーミントロールという名をつけました。 トーベ・ヤンソン 序文よりー

 

小さなトロールと大きな洪水/トーベ・ヤンソン作 冨原眞弓訳/講談社

 

ずいぶん長い間、ムーミンシリーズは8冊だと思われてきました。

この「小さなトロールと大きな洪水」を書き始めた時には、第二次世界大戦が始まろうとしていました。

アトリエの窓ガラスも爆弾でこなごなに吹っ飛びました。物資も乏しくなり、好きなことをしたり、嫌いなものを嫌いだということも出来なくなりました。明るい絵も描けなくなり、風刺画も載せてもらえなくなりました。

そこでヤンソンさんは、自分の癒しのために「むかしむかし、あるところに」ではじまる楽しいおとぎ話を書こうと思い、そうしてムーミントロールの物語が生まれたのでした。

 

この「小さなトロールと大きな洪水」は1945年にわずかに発行されましたが、そのまま絶版になって、改めて出版されたのがシリーズが完結してから21年後だったのであまり知られていません。

 

主人公のムーミンも、当時ヤンソンさんがサイン代わりに使っていた「小さな怒った顔をした生きもの」でっした。そのため今の丸く愛らしいムーミンとは少し印象が違っています。

出版する前に、今のムーミンに合わせて書き直そうかと思ったようですが、この物語にいっぱいつまっているひたむきさや若さが失われてしまうだろうと考えて、あえてそのまま出版したのだそうです。

 

この最初のムーミンのお話は、ムーミンママとムーミントロールは住む家もなく、暗い森の中をさまよって多くの危険に遭遇しながら進んでいきます。ムーミンパパはニョロニョロにそそのかされて、どこかへ行方不明になってしまいました。よくある冒険物語ともいえますが、戦争で父親など家族が離れ離れになって、住む家も無い当時のヤンソンさんの世相が見え隠れしているようです。

 

そして、このお話だけに登場するチューリッパや赤い髪の少年などの存在が、興味深かったですね。

チューリッパはチューリップの中に住む少女で、途中からムーミントロールと旅を続けますが、ピンチの時に光って助けてくれたりします。

赤い髪の少年は、海が嵐になると港で見張りをして、遭難しそうになったムーミンたちを導いて海のプディングをご馳走してくれます。

ここでムーミントロールたちは、ムーミンパパの行方のヒントをもらって行ってみると、そこには洪水にあって、大きな木のいちばん高い枝の上で、びしょぬれでしょんぼりとすわって、水をじいっとながめているムーミンパパがいたのでした。

コウノトリに助けられたパパは、こういいます。

 

「ほんとうにすばらしい家だったんだ」

 パパはいいます。

「息子よ、ずいぶん大きくなったなあ!」

 

ムーミンパパは家族で住むために、家を建てたのでした。でも、それもみんな洪水で流されてしまったのです。

 

「空のような青い部屋、お日さまのような金色の部屋、それに水玉もようの部屋だ。屋根裏にはお客さん用の部屋もある。スニフ、きみのための部屋だよ」

「その家はわたしたちと住もうと思って建てたの?」

「もちろんさ」

 

それから再び、みんなは住む家をさがして旅を続けましたが、最後に、小さな谷にやってきたのです。そこには・・・・

 

この「小さなトロールと大きな洪水」は、とても小さくて短いお話です。でも、その中には、喜びや悲しみや友情や家族愛がぎゅっと濃く詰まった物語になっていました。

このお話を読んでから、なおさらムーミントロールが愛おしくなったことは言うまでもありません。そして、あの青い家も。

 


小さなトロールと大きな洪水 [新版] (講談社文庫) [ トーベ・ヤンソン ]

 


ムーミン全集[新版]9 小さなトロールと大きな洪水 [ トーベ・ヤンソン ]

 

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